「真に意味のあるAI」を。AnyData「運用基盤」開発者が描く、IT運用の劇的な変化
データを準備するだけで、AIやITなどに関する高度な知識や技術を新たに習得することなく、AIを自社のビジネスに組み込むことができる。それを叶えるべく、AI inside ではマルチモーダルなAI統合基盤「AnyData」を、2023年6月に提供開始しました。
AnyDataは主に3つの「基盤」から構成され、その中でも「Operating Foundation (運用基盤)」を企画・開発をリードしたのが三谷辰秋です。長年、インフラエンジニアとして運用業務の現場に携わってきた三谷は、今回の開発に「積年の思いが晴れるような」手応えがあったようです。
ITシステムに必須の運用業務が劇的に変わる。その未来像とは、いかなるものでしょうか。
※内容や肩書・所属は記事公開当時のものです
ITシステム必須の「運用業務」を任せられる存在に
──まずは、AnyData がどのようなものか教えてください。
AnyDataは、AIの開発と実装に求められる基本的な機能を全て備えた「AI統合基盤」です。構造・非構造化データを一元管理するとともにデータマートを生成する「Data Foundation(データ基盤)」、データ前処理や新たなAIモデルの生成・評価を行う「Learning Foundation(学習基盤)」、性能監視やデータガバナンスも含めた高品質かつセキュアなAI運用を可能とする「Operating Foundation(運用基盤)」から構成されます。
──三谷さんはAnyDataの開発にはどのように関わっていますか。
僕はその中でOperating Foundation(以下、運用基盤)の企画と開発を手掛けてきました。
AI inside が独自に「仮想のデータセンター」を構築し、それらをハイブリッドにつなぐAI運用基盤の「Leapnet(リープネット)」とも連携するように考えました。着実に、Leapnet構想の実現に近づいている開発だと思います。
──AnyData の運用基盤の役割を教えていただけますか?
ITのシステム開発には「運用業務」が必ずあります。作成したシステムを持続的かつ安定的に提供するためには、人的リソースの投入など多くの調整が必要です。運用基盤は、システム運用において考えるべき安定性・脆弱性・セキュリティ・負荷の処理といった調整業務を任せて簡素化する、あるいは全てをAIの運用で賄えるようにします。
将来的には、顧客が作成したソースコードもこの基盤に乗せられるように進化させていきたいです。AWSやAzureのような存在に近くなっていく感覚ですね。むしろ、AWSやAzureがIT業界に浸透していった中で、そこで生まれた課題を解決するサービスを提供できるようになったのも強みと言っていいかもしれません。
ビジネスをクイックに立ち上げたい人の味方になれる
──他社のパブリッククラウドと比較した際に、AI inside の運用基盤が持つ強みは何でしょうか?
AIを活用して自動的に構築し、デプロイして、運用可能な状態を作るまでの一連の流れをかんたんに実現できることです。これまでの「部署をまたぐ運用ができない」といったよくある悩みに対して一気通貫で整えられるのが、AnyDataの魅力でもあります。
また、運用基盤は「どういったコンピューティングリソースを使うか」を選べます。AIの進化を支えるGPUや特化型チップの開発をNVIDIAなどの各社が進めています。今後は「各社の良いところ」を取り入れた環境の構築も可能になってくるでしょう。
たとえば、AWSの中だけに閉じていた場合は、AWSが提供したラインナップしか利用できませんが、自分で構築できれば「一部をGCPにしよう」といったように選ぶこともできる。
GPUだけでなく、TPUやInferentiaといった次世代のAIチップが導入されてきた場合にも、柔軟に対応できることも将来像として見ています。
──具体的にどのような顧客を想定していますか?
まずは、スタートアップから大企業まで、新たなビジネスをクイックに展開したいユーザです。特にスタートアップの場合は、人数が限られている環境で本来はビジネスロジックに集中したいはずですが、システムの運用部分で多くの課題が発生しています。それを解放することで、彼らが集中できるようにすることも大きなテーマの一つとしてあります。
これまでもパブリッククラウドを用いて自社で回すことも可能でしたが、プログラミング言語の習得やアプリのデプロイが必要だったりと、どうしても専門知識や開発工数がネックになっていました。
AnyData であれば、ビジネスアイデアを持つ人がAIを使ってソースコードを作成し、それを運用基盤にアップロードするだけで、ビジネスがすぐに始められるだけでなく、運用を任せられる状態が作れるようになる。簡単にPoCを回して、ビジネスをクイックに進められるようになっていくはずです。
自社や業務にとって「本当に意味のあるAI」とは?
──クイックなサービス展開を可能にする強みの他に、ユーザに与える「大きなビジネスインパクト」は何だと考えますか?
大きな目玉となると思うのは、専用のデータ区画を作れる点です。
現在のChatGPTやAzure OpenAI Serviceなどは、あくまでそれらのAIで学習させることを主なターゲットに置いていますから、個人情報や企業の情報をアップロードすることが、特に日本企業はセンシティブになっています。実際、海外でも機密情報の取り扱いは難しいはずです。
そこで、専用のデータ区画を作り、学習するためのデータをアップロードした個社に限るといった状態を作れる、セキュリティの担保が実現できるのは、大きな違いです。結果的に、特定の業界や企業に特化したAIを作ることも可能となり、より専門性を向上させられると考えています。
「情報の出処」はビジネスを進めていく上でも議題にあがります。会社の過去のデータや傾向に基づいたアイデアであることは、信頼性や信ぴょう性も増します。
自社や業務にとって「本当に意味のあるAI」と言ってもいいですね。ファインチューニングを続けることで、自社のAIがどんどん賢くなっていくことが、企業にとって価値のある状態を作り出すと思います。
──なるほど、自社独自の環境で「本当に意味のあるAI」が活用できるようになると。
また、その企業内だけで通じるような特殊技能を持つ人が回していた属人的な作業があった場合、その人が退職すると回らない現場が出てくるのも課題です。運用基盤はそういった状況を変え、「知識の平準化」を実現できます。
さらに言うと、運用に関して苦しんでいる現場も多いはずです。24時間365日、システムを見続けなければならない、当番制で働いている人たちがいるわけです。一時期は「NoOps」と言って、オペレーションをなくすという文脈が盛り上がったことがありました。私自身もずっと運用側にいて、その世界が来たら嬉しいと感じながら、実現は難しいだろうと見ていました。それが今、ついに実現しやすい基盤を作れたと思います。
企業にとっても、その人たちにとっても、クレームやアラートが常に発生してしまう状況から脱出できることは大きなメリットでしょう。まず、精神的に楽になるのも大きいですが(笑)、運用部隊の人件費やサービス運用コストが大幅に削減できる状態を作り出せて、そのリソースを他に投資できますから、経営へのインパクトも大きいはずです。
「“AI” inside “X”」がより実現する世界観へ
──AnyData の開発・提供によって、今後はどのような展望を見据えていますか。
我々は、今回のAnyDataとLeapnetによって、GAFAMに対して競争力を持ち、勝負できる立ち位置にあると考えています。特に、コンピューティングリソースの独占が常態化していた部分を打破できる可能性がある。
もちろん、彼らも強みを持っていますし、既にシェアをとっているところもありますから、どうやって顧客に価値を感じてもらいAnyDataをご利用いただくかは、これからさらに議論を深める必要があるしょう。
しかし、依然として既存プレイヤーを凌駕するチャンスはあると思っています。AnyData の運用基盤にメリットを感じた人々が増えると、海外も含めて可能性はありますね。
──3年後など、具体的な期間で見込んでいることがあれば教えてください。
直近ではまず、学習基盤やデータ基盤との連携を進めようと考えています。すでに運用基盤は単体でも動かせますが、AnyDataの最大の価値はやはり全体が連携しているところにあります。そして、どういったモデルを使うべきかを選べる、あるいは推奨値を自動で使えるような状態を作ることも視野に入れています。
また、AIモデルにしても、他社が開発したソースコードをアップロードして動かせるような仕組みも作りたいと考えています。例えば、私たちが作ったAI-OCRモデルや物体検出モデル、予測モデルなども、他の業態で使えるはずです。ある業務課題に対して、裏側でAIが動いて、自動的に最適な解答を出せるような世界観と言ってもいいでしょう。
例えば、「結婚式場に行く人」は、おそらく1年以内に結婚式を挙げるでしょう。そういった人たちを対象に、保険会社のノウハウやサービスを連携することができれば、ライフプランを作る重要なタイミングで提案のアクションを起こしやすくなる可能性があります。
あらゆるものの運用をAIが担った結果として、ノウハウのかけ合わせによって顧客の業務や生活が楽になり、従来は必要だったコーディングや複雑なサービス管理などが一切不要になる世界観を作りたいです。
──ノウハウのかけ合わせ、とても面白いのですが、先ほどの個社データの取り扱いといった観点からの懸念もありそうです。
個人情報の取り扱いは学習データを作る上で引き続き重要なポイントですし、サニタイズ(データの無害化や匿名化)技術もAI inside では独自に進めています。AIが学習する上では匿名化されたデータを用いれば、企業間連携においても安全に取り組めるようになります。
──企業が持つ大量の情報が重要な資産であることを再認識させるためにも、運用基盤は有用だと感じました。これからの広がりが楽しみです。
そうですね。AI inside のビジョン「“AI” inside “X”」は、様々な環境にAIが溶け込むように実装され、誰もが意識することなくAIの恩恵を受けられる豊かな社会の実現を意味しています。AnyData はそれを可能にするもので、開発を進めることは、その実現に向けた途上ともいえますね。
(文・写真/長谷川賢人)
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AnyData について