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生成AIの真価は「既存プロセスの変革」にある。広報DXツールの事例に見る、AI実装コンサルティングの重要性

AIプラットフォームを提供するAI inside は、2023年11月10日に株式会社七十七銀行の生成AI導入プロジェクトを共同実施することをプレスリリースで発表しました。

この取り組みを推進するのが、AIテクノロジーとその事業化に深い知見を持つプロフェッショナル人材を結集した経営層向けのAI実装コンサルティングチーム「InsideX」です。「InsideX」では、お客様の伴走支援と並行して、AI inside 社内にある課題を生成AIで解決を図る取り組みも行っています。

一例として、「広報DXツール」を作成したのが、2023年8月からAI実装コンサルティングチーム「InsideX」の一員として活動する黒川遼太郎です。生成AIへの知見を有するコンサルタントとして広報チームに接した黒川は、広報業務の中でも時間がかかりノウハウが必要な「プレスリリース作成」の効率化に着手。数度の打ち合わせをもとにしたわずか1ヶ月の構築期間でツールを形にしました。

ツール作成に共に取り組んだPR Unitの五石裕朗を交えて、今回の取り組みを振り返りました。黒川も五石も、さらなる生成AI活用の先にある未来に、顧客へ提供できる大きな価値について、一層の自信を深めたようです。

黒川 遼太郎  / Ryotaro Kurokawa(写真右)
Professional Services Division/ Inside X Unit/ Consultant
1996年生まれ、愛知県出身。南山大学経営学部卒業、イギリスのリーズ大学で交換留学も経験。在学中にはスタートアップ立ち上げに参画し、映像制作事業、B2B SaaSなどに携わる。2020年9月にAI inside にジョイン。直販セールスを経て、2021年4月からパートナーセールスを担当。2023年8月より生成AIをはじめとしたAI実装コンサルティングチーム「InsideX」の Unitへ異動。

五石 裕朗  / Hiroaki Goishi(写真左)
CEO Office/ PR Unit
1993年生まれ、千葉県出身。明治大学商学部卒業後、大手電子部品メーカーに入社。約6年間、社内外広報業務全般を幅広く経験。海外現地法人のPR支援ほか、企業理念の刷新および浸透策の検討やSNSの立ち上げといったプロジェクトも推進。その後、2022年8月にAI inside にジョイン。PR Unitで主にプレスリリース作成やメディアリレーションなどの社外広報を担当。

※内容や肩書・所属は記事公開当時のものです

メモ書きを入力すれば、プレスリリースのドラフトを瞬間作成

──今回作った「広報DXツール」はどういったものですか?

黒川:箇条書きのメモを投入するだけで、報道関係者向けに自社の取り組みなどをお知らせする「プレスリリース」のドラフト(下書き)を自動生成するツールです。

プレスリリースを作成する際、執筆者は営業や開発メンバーへヒアリングした情報や世間で注目を集めている社会動向など、様々な要素を考慮しながら文章を組み立てる必要がありますが、このツールを使えば、雑多なメモを入力するだけで、これらの要素が自動で整理され、プレスリリースの骨子が瞬時に生成されます。

──特筆すべき機能はありますか?

黒川:プレスリリースが実際にメディアに取り上げられたと仮定して、どのようなヘッドラインになるかを予測・提案し、その例からさらにプレスリリースを修正する機能もあります。この機能をツールに組み込んだ背景には、今後人とAIの協働が加速する中で、AI同士の協働作業もあり得るという仮説があります。具体的には、「広報担当者」と「メディア記者」という2つのロールを設けて、互いにコミュニケーションをさせてアウトプットを生成するという考え方です。そして、最終的に人間がAIエージェント同士のアウトプットに対して価値判断を行います。

五石:ある記者から、「ヘッドラインがすぐにイメージできるプレスリリースは記事化しやすい」とアドバイスを頂戴したことがあります。プレスリリースの度に記者と壁打ちし原稿を整理することはあまり現実的ではないので、それをAIエージェント同士で代わりに議論してくれるのであれば、単なる業務効率化以上の価値があると感じます。

──このDXツールがあることで、広報業務はどれくらい効率化されますか?

黒川が作成した「広報DXツール」プロトタイプ

五石:案件の複雑さにもよりますが、ヒアリング後のドラフト作成に要する時間は体感的に2〜3時間ほどでしょうか。このツールを使えば、それが数十秒で完了します。生成されたプレスリリースの完成度としては30%ほどのイメージです。30%のたたき原稿を作るのは簡単ではないので、非常に助かっています。

黒川さんに作ってもらった広報DXツールを使えば、ヒアリング等で集めた雑多な情報のメモをそのまま入力するだけで、すぐにプレスリリースの「叩き台」が自動で生成される。使う側としては、本当に「ボタンを押すだけ」の感覚で、裏側で生成AIが動いていることも認識できないくらい簡単です。

セミナーなどで「ChatGPTの広報活用術」を学ぶことがありますが、結局はプロンプトの設定や調整が面倒で、それならば自分で原稿を書いた方が早いと感じることもあります。このツールも裏側では事前に設定されたプロンプトが動きますが、黒川さんがコンサルタントとして一からプロンプトデザインに携わってくれて、私はその設計に工数を割いていません。生成AIの効力を現場で役立てるには、AIの知見が深い方に支援していただくのがより近道だと感じました。

AIツールができるプロセスそのものが成果物

──黒川さんは、どのようにツールを作っていったのですか?

黒川:初めは、五石さんとの飲み会で「プレスリリースの書き方」について話したのがきっかけでしたね。僕自身もInsideXの一員として、自主的にユースケースを考えていかなければならない時期だったんです。

現状ではChatGPTを導入した多くの企業において、その活用が「メール文面の作成」など限定的な用途にとどまっていました。その背景として、生成AI利活用における発想の起点が「個人のタスク」ベースとなっていることが考えられます。継続的に業務定着させるためには、業務フローを出発点として検討を始めることが重要と捉えています。

生成AI活用に向けた発想転換の必要性

ユースケースの重要性については、同Unitの西川智章の記事も合わせてご覧ください

黒川:ユースケースは机上だけで考えてもうまくいきません。やはり課題は現場にあります。早速、実際に業務にあたっている五石さんとミーティングを組み、広報業務で生成AIが活用できそうな領域や具体的な業務プロセスをヒアリングし、そこから必要なツールのイメージを固めました。そこからはモックアップを作って、五石さんからフィードバックをいただき、徐々にツールを磨き込んでいったんです。

五石:印象的だったのは、黒川さんは「プレスリリースにどのような要素を含めるべきか」「メディアが興味を持つポイントは何か」など自動化したいタスクの構成要素のみならず、その前後工程も含めてヒアリングしてくれたことです。そのうえで、暗黙知的な要素を言語化しながらプロンプトを組み立て、プレスリリース作成ツールとして形にしてくれました。この過程で、私の頭の中も整理された感覚があります。

コンサルティングを受けたことで、成果物としての生成AIツールに価値があることはもちろん、自身の業務を改めて振り返り、深掘りするきっかけにもなりました。

AsIsの業務効率化に留まらず、ToBeの業務フローを提案したい

──今回の「広報DXツール」を踏まえて、自身の仕事にも変化は出そうですか?

五石:生成AIにより、プレスリリース作成における広報の作業は限りなく少なくなるのではないかと感じました。たとえば、自社の取り組みやその特徴について一番深く理解しているのは、CxOに加え、製品であれば営業やエンジニア、会社制度であれば人事など、第一線で活躍している社員です。そういった情報の出所であるみなさんが、項目に沿って簡単なメモを入れるだけでプレスリリースの原稿が作れるのであれば、広報担当者が一からヒアリングする必要さえないかもしれない。

そうなれば、プレスリリースに関する私たち広報の仕事は、現状の生成AIでは拾いきれない鮮度の高い情報の収集・分析や人と人のコミュニケーションで成り立つメディアアプローチなどに、よりウェイトが置かれていくかもしれません。

黒川:五石さんが言うように、InsideXとして次にやるべきことは、現在の業務プロセスを変革していくことだと考えています。

まずは既存の業務プロセスを、AIで代替することができれば、次のステップでは業務プロセス自体を変えていく必要があります。例えば、プレスリリースを作成するためにウェブミーティングで広報担当者が営業へヒアリングを終えた時点でバックグラウンドで自動的にドラフトが完成し、内容に応じた最適なメディアへのアタックリストやアプローチ方法まで出てくる。そのようなシステムを作れれば、業務フローが大きく変わり、新しい可能性が開けると思っています。

そういったToBeの業務フローへ変革し、価値創出に向けたValue Shiftを実現することが私たちの使命だと感じています。

Value Shift 実現に向けたロードマップ

大切なのは「経営指標にどれだけインパクトを与えられるか」

──実際に、社内プロジェクトなどでユースケース作成に取り組んでみて、既存の業務プロセスを変えていける展望は持ちましたか。

黒川:そうですね。生成AIやLLMを活用する勘所がわかってきました。ただ現状では、最終的な成果物まで生成AIだけで作り上げるのは難しく、人間が最終的な判断を下すべきだと思っています。生成AIでは「中間生成物」をいかに効率よく作り出せるかが重要でしょう。経験は浅くとも、地頭の良い新入社員が24時間働いてくれるようなイメージです(笑)。

五石:おもしろいですね。生成AIの限界も理解したうえで業務プロセス全体を俯瞰して提案してくれることが、InsideXによるコンサルティングの強みだと改めて感じました。

黒川:ユーザのニーズに応じて柔軟に対応することはもちろん、ユーザ自身が気づいていない潜在課題も見つけ出しアプローチします。また、InsideXとしては生成AIの活用も手段の一つに過ぎません。大切なのは、様々なテクノロジーを駆使して経営指標にどれだけインパクトを与えられるかです。

プロンプトの中身そのものが業務マニュアルになっていく

──生成AIにより人の仕事が無くなるという話も聞きますが、どのように感じていますか?

五石:AI inside では9月26日に「生成AIのビジネス継続利用者はわずか7.8%」という調査レポートを発表しました。

五石:この調査の中で、生成AIをビジネス利用していない464名のビジネスパーソンに対して、利用しない理由を聞きましたが、結果として、「自身の業務が代替されることに懸念がある」と答えたのはわずか5.2%でした。

「新人の仕事は生成AIに全て代替される」「AI時代の新人教育の価値とは」なんてネガティブな話も耳にしますが、視点を変えれば、「生成AIに新人を教育してもらう」ような前向きな捉え方もできるのではないでしょうか。

実際に、今回の取り組みを通じて、プロンプト自体が教育資料になるのではないかと感じました。広報DXツールの裏側では、プレスリリース作成のポイントがプロンプトとして整理されています。それをそのまま教育資料とすれば、新人がプロンプトを読みながら学び、実践することもできるはずです。

黒川:人がAIのために作ったマニュアル(プロンプト)が、一周まわって新人教育にも役立つというのは面白いですよね。マニュアルが整備されていない企業も少なくないと想像しますから、業務効率化と合わせて一石二鳥ではないでしょうか。InsideXとしては、人口が減少している中でも生産性を維持する、あるいは今以上の生産性を実現することが重要だと考えています。経営目線での課題や指標に対してのアプローチを、今後も考えていきたいです。

(文・写真/長谷川賢人)
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