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先行者ビジネスに魅せられた起業家が考える、「AIの民主化」を実現する3ステップの進め方【MY CAREER STORY】

「誰もが使える世界規模のAIプラットフォーム」の実現を目指すAI inside。そのビジョンを実現するためには、ツールやサービスの磨き込みだけでは不十分です。いかに企業で実装され、自走することができるのか。AIを用いた全社最適や新規事業創出を促し、経営に関するインパクトをもたらせなくてはなりません。

2023年6月に発足した経営層向けAI実装コンサルチーム「InsideX」は、AIテクノロジーとその事業化に深い知見を持つプロフェッショナル人材が結集しました。その一人が西川智章です。AI実装の最前線に立ち続ける西川は、いかなる歩みを経てきたのでしょうか。彼が考える「AIが企業と社会を変えていくプロセス」についても聞きました。

西川智章(Tomoaki Nishikawa)
Manager of Consulting Unit、Principal of InsideX
PwCコンサルティングやAIベンチャーにて主に日本並びに東南アジア地域の金融、製造、農業インダストリー向けにAIビジネスコンサルティングやビックデータ解析サービス、先端技術を活用したビジネスモデルの構想・計画策定などを支援。これまで、事業会社等にて中国事業やビックデータ事業部、AI事業の立ち上げなどに従事。その後、株式会社aiforce solutionsを創業し、代表取締役社長を務めた。2022年5月の吸収合併を機にAI inside にジョイン。東北大学 データ駆動科学 AI教育研究センター 特任准教授(客員)、米国公認会計士(ワシントン州)、人工知能イニシアティブ会員、データサイエンティスト協会会員。日本語・中国語・英語のトリリンガル。

※内容や肩書・所属は記事公開当時のものです

コンサルタントのロジックの美しさ、数式のような精密な説得力に魅力を感じた

──子どもの頃から続けていることって、ありますか?

小学2年生からずっと空手は続けています。もともと喘息持ちで体が弱くて運動しなければいけなかったのと、実家の両隣に『ドラえもん』で言うところのジャイアンとスネ夫のような存在がいて、私はのび太の位置づけだったから、強くならないといけないな、と(笑)。

進学した地元の岡山大学でも空手部に入って、主将を務めていたこともあります。あと、合気道も黒帯なんです。

──武道とは意外でした!大学時代の専攻は何でしたか。

理工学部で環境理工学を専攻していました。シミュレーション、モデリング、プログラミングはそこで学びましたし、モデリングや多変量解析など現在のAIのベースとなる機械学習に通じる技術も身につけました。

卒業後は総合ITベンダーに入社し、システムエンジニアとして10年ほど勤めました。Webサービスの立ち上げ、SFAの自社開発、ERPやCRMの開発などに携わったり、プリセールスの仕事も多く担当したりしていました。

──なぜ、エンジニアからコンサルへ転職を決意されたのでしょうか?

将来のキャリアのロールモデルとなる課長や部長を見た時に、キャリアアップの限界がある現実に気づき、それ以上の成長は見込めないと思いました。そこで、外の世界を見るために、グロービス経営大学院で学んでみたり、経営やビジネスに関する本を読んでみたりしたんです。

特に、マッキンゼーやBCGといった企業の方々の講義や様々な書籍を読む中で、コンサルティングという仕事があることを知りました。大前研一さんの著書「企業参謀」を読み、コンサルタントのロジックの美しさ、数式のような精密な説得力に魅力を感じ将来のキャリアをそこに定めました。

ただ、当時いた総合ITベンダーから外資系コンサルタントに転身するというのは、とてもハードルが高く、何か武器が必要だと思いました。その中で中国に出張する機会があり、修行もかねて、中国の日系企業に転職しました。

──中国で働かれていたんですね!そこで、どういった仕事を?

事業開発のような仕事をしました。その頃、ERPや会計システムの導入が流行っていたのもあり、それらの導入コンサルティングを行いました。中国での日々は刺激を受けましたね、周囲には起業する人もたくさんいましたし。

そんな折に、ある外資系コンサル会社が「中国ビジネスの経験者を求む」という求人を出していて、ベストタイミングだと思い、応募して入社することができました。

──念願叶ったわけですね。コンサルに感じていた「数式並みの美しさ」は、実際に入って体感できましたか。

コンサル会社では、戦略もあれば、計算もあり、ガバナンスもありという環境で、コンサルの多面性を理解することはできました。一方で、自分が「PowerPointとExcelに文字を詰め込む仕事をしている」とも実感しました。資料作りに命をかけるような仕事で、いかに一文字に想いを込められるかが重要だと。

次に転じたのはPwCで、経営基盤のためのシステム構築、海外市場への参入戦略の調査や立案、オペレーション改革など様々なプロジェクトを担当するなかで、ようやく自分が思う「コンサル」像を掴めたと思います。そこで、大きな出来事だったのが、IR(統合型リゾート)の日本誘致計画の立ち上げメンバーとして参加したことでした。

「まだ何もないところに線を引き、言葉を作っていく」面白さ

──後のAI事業につながる経験が、IRの仕事にあったのですか。

ものすごく面白い仕事でした。最終的にIRは、全てのオペレーションを自動化して、お客さまをリゾートの中でいかに周遊させられるか、顧客視点のUXの変革が重要になってきます。例えば、オペラハウスで鑑賞しているお客さまに対して、過去のカジノのプレイ履歴から「カジノでジャックポットが始まるよ」という情報をスマホ端末にプッシュ通知で送り、参加を促す。その裏側で走るのは、レコメンドエンジンです。そうやって、顧客一人一人にパーソナライズされた体験を新しいビッグデータの解析と機械学習の力で実現していきます。

2012年くらいのことで、日本ではまだ、AIという言葉は流行っていない状態でした。でも今後は、このデータに基づくUXの構築や経営の意思決定が鍵になるだろうと私は感じました。

この頃の気づきとしては、「先行者ビジネスは面白い」ということです。そういう意味では、中国ビジネスもオリンピック前だったので、需要があり先行者ビジネスでした。また、AI・IR・ガバナンスなどの先行したビジネスに携わっていく中で、「そのビジネスが爆発的に伸びていく雰囲気」を掴み、「次に何が流行りそうか」の輪郭が見えるようになってきました。

他にも、先行者ビジネスの面白いところは、お客様全員が知らないからこそ、自分が定義を作り出すことができ、それが浸透していくことです。こういうコンサルティングのスタイルが自分には合っていると気づいたのです。オペレーショナル・エクセレンスを目指す人がいても良いのですが、私としては「まだ何もないところに線を引き、新しい言葉を作り、それを伝え、ファンを作る」ほうが面白いと思えました。

ビジョンの達成が何よりも重要だから、この道を選んだ

──そして、aiforce solutionsを創業されましたが、コンサル会社で社内の新規事業創出といった形を取らなかったのはなぜですか。

自分で線を引きたいなら、方針を作るところから、自分でやるしかないと思ったんですね。そして、自分で線を引くなら……と考えて起業を志し、AIの専門知識がないビジネス部門の実務者であっても、AI運用の内製化を推進できるような、AIデータ分析自動化ツールを開発することにしました。

この領域に決めたのは、コンサル時代の課題感がスタートです。従来であれば、データ分析はコンサルやデータサイエンティストを大量に投入して取り組んでいた仕事で、非常に高額なコストがかかっていました。ビジネスとしては成り立つかもしれませんが、顧客にとっては好ましくない状況ですし、一部の資金力ある企業でしか実践できません。

特に、日本の数多くを占める中小企業はこのメリットを享受できない。そこで、データサイエンティストが担う業務を全てソフトウェアで代替できるようにと考えました。彼らが大量の時間を費やしていたような仕事が、たった一日で終わるようになる世界を作ろうと。

これは、私が掲げている「AI民主化の考え方にも繋がります。AIの民主化は、大企業だけではなく、中小企業の人まで全てにAIを使える道具にして欲しい、という意味がありました。Excelと同じようなものにしたかったんです。

──その目標を掲げ、実際にビジネスを展開している中で、AI inside への吸収合併という道を選ばれました。決断に至った最大の理由は何でしたか?

そこは確かに分かれ道でしたね。実は、AI inside からの吸収合併の打診と同時に、別の会社から出資のお話も寄せられていたのです。ただ、AI inside とは抱いているビジョンが近く、よりワクワクすることができるかもしれない期待感がありました。仮想分散型のAIネットワーク「Leapnet(リープネット)」の構想も野心的でしたね。

「Leapnet」や仮想分散型AIネットワークについてCEO渡久地が語っている記事もあわせてご覧ください。

また、AI inside は、すでにAI-OCRの領域で大きなシェアを取っていましたから、そこに私たちの力を流し込めば、自分たちが実現させようとしていたイメージが、より速く進展するのではないかとも考えました。

当時の従業員や株主とも何度もディスカッションして、たくさん悩みましたが、最終的には「ビジョンの達成が何より重要だ」と思ったので、吸収合併の道を選ぶことにしました。

これからの経営には、DXへのステップを進める存在が必要だ

──現在は、AI inside でどういった仕事を進めていますか。

現在の役割はConsulting UnitのManagerとして、そして経営層向けAI実装コンサルチーム「InsideX」でPrincipalとして、企業の様々な課題に取り組んでいます。

AIが企業や日本を変えていくには、大きく3つのステップがあると捉えています。まずは「デジタリゼーション」です。当社が提供する「DX Suite」は、紙資料をデジタル化することで、言わば「ステップの入り口」の役割を果たしています。

アナログ処理されていたものをデジタル処理へと変えることで、大量のデータが生成され、次のステップである「デジタライゼーション」というデータ活用の世界に進んでいきます。そして、その世界が一層進み、新しいビジネスモデルを作り出すためのプロセスを進めていくことで「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が実現されます。

ステップ1「デジタリゼーション」、ステップ2「デジタライゼーション」、ステップ3「デジタルトランスフォーメーション」というステップごとで、それぞれの領域をサービス化したのが隆盛している「SaaS」と言ってもいいでしょう。AI-OCRの「DX Suite」ならステップ1のSaaSですし、昨今話題の生成系AIやChatGPTならばステップ2のSaaSです。

個別の事象はSaaSで改善されるのですが、最終的にはプラットフォームのようになっていく。その全体が大きくなっていくことで「AI民主化の波が拡大した」とみなせるわけです。

ここで大切なのは、それぞれのサービスを縦軸、デジタル化のステップの進行を横軸に据えたとき、縦軸をいくら伸ばしたり細分化したりしても、横軸方向への移動はなかなか起きない、ということです。「InsideX」は、まさにこの横軸への移動を促す存在だと言っていいでしょう。

──特に、デジタライゼーションから、デジタルトランスフォーメーションへと進む過程で価値を発揮する集団ということですね。

「InsideX」は、AIテクノロジーとその事業化に深い知見を持つプロフェッショナル人材を集めた、経営層向けのAI実装コンサルティングチームです。ビジネス課題の発見からAIを活用したビジネス変革の実現までを支援し、全社最適や新規事業創出を目指しています。

──AIが日本企業や社会に浸透していき、デジタルトランスフォーメーションが起きていくと、どういったビジネスがありえていくのでしょう?

以前、AI民主化1.0から5.0までのロードマップを作成したことがあります。AI民主化5.0が実現された状態とは、ハードウェアと付随するノウハウに加えて、ソフトウェア、モデル、データも含めて、すべてハンドルして海外に輸出できることを定義しています。

たとえば、新幹線を作って売るのは、ただのハードウェアビジネスです。が、故障を予知し、自律的に修復するような仕組みを付加できれば、より競争力の高いスマート化されたサービスに近づきます。スマートシティもその一つでしょう。高齢化先進国の日本で、AIやその他の技術を使って市民の健康状態をモニタリングし、より健康に生きられる都市、たとえばスマートエイジドソサイエティのようなものを作る。その街全体を、今後少子高齢化が進むアジア地域の国に提供する。そうすることで初めて、社会課題が丸ごと対峙できるスマート化された解決策を提供できる国として、再び日本のプレゼンスがあがるものと信じています。

──「まだ何もないところに線を引き、言葉を作っていく」という面白さに魅せられた西川さんらしい観点だと思いました。個人的なことも含めて、今後の目標や達成したいことはありますか?

まずは、私たちが進めてきたステップを続けていくことが重要です。その上で、AI技術に精通した若い人材を育てていくことにも力を注ぎたい。やはり、年齢を重ねた者だけが長く関与し続けると、組織全体が衰退する恐れがあります。育成時期を決めて、私たちはスッパリと退くくらいでいい。世代交代が、これからの課題の一つですね。私自身も年を重ねてきて、大学生を含めた20代の若者たちが、さらに活躍できる場を作りたいです。本当は、彼らに向けた本を書いて出版したいとも思っています。

プライベートとしては……美味しいシュークリームが食べられるカフェを開くのが夢です。ゆっくりと静かな海辺や湖畔で、私は蝶ネクタイをして、そこでコーヒーを淹れるマスターをしたいです。でも、やり始めると、シアトルの美味しいお店を日本に引っ張ってきて展開したい、など、静かではない生活になる気がします(笑)。

(文・写真/長谷川賢人)
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