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社会課題の解決は家族を守るため。苦汁をなめた経験がCROを次世代リーダーの育成に向かわせる【MY CAREER STORY】

「誰もが使える世界規模のAIプラットフォーム」の実現を目指すAI inside。グローバル展開を見据えているからこそ、役員陣にも多彩な実績を持つメンバーがいます。

その一人が、日本アイ・ビー・エムにて執行役員を務め、AIテクノロジーの先駆けともいえる「IBM Watson」を普及させた実績を持つ岡田和敏です。現在はAI inside のビジネスサイドのトップとして、4つのDivisionとCRO OfficeをかかえるBusiness Groupを統括。

岡田の胸にはAI inside の世界進出だけでなく「次世代のリーダーを作りたい」という想いがありました。

岡田和敏(Kazutoshi Okada)
執行役員CRO
大学卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、20代でシステム開発会社を起業。EDS JAPANやジャパンシステム、日本ヒューレット・パッカードなどで役員を歴任。2013年に日本アイ・ビー・エムの執行役員に就任後、保険事業・パートナー事業を担当し、金融業界及びIT会社500社以上に「IBM Watson」を普及させた。2022年12月当社参画、2023年3月CRO(執行役員)就任。最近は、60歳を超えてから乗り始めたトライク(電動3輪車)を楽しんでいる。

「深く考える力」の強化のために意思決定の機会を提供したい

──AI inside に入社された動機は何でしょうか。どういった点に共感されましたか。

大きく2つあります。一つは、AI inside を世界へ持っていきたいという思いです。私はアメリカ企業での勤務が長かったので、いつもアメリカから日本を見てきました。だからこそ、日本企業へ懐疑的な意見もよく持ったものです。けれど、私自身は日本人ですから、やはり日本発でグローバルに成功するベンダーを作ってみたい。AI inside には、そのポテンシャルを感じました。

(CEOの)渡久地さんが先日あった全社向けの社内イベントで、「ChatGPTはすごいけれど、同じ業界でライバルだからこそ打ち勝つ覚悟でやっていく必要がある」と話していました。それは野球のWBCで決勝戦前に、メジャーリーガー揃いのアメリカ代表を相手にしても、大谷翔平選手が「憧れるのはやめましょう」とチームメイトへ呼びかけたのと同じだと思っています。

もう一つは、次世代のリーダーを作りたい。私がIBMに入った時はグローバルでトップを走る企業だと感じたものですが、やはりトップを走るには、強いリーダーシップや意思決定、判断力、想定外の状況での瞬発力などが必要です。加えて、ITの流れや歴史、知見を継承しながらも、変わっていく世界観に対応できる次世代に「リーダー」を担ってほしいのです。

──2点目について、どのように次世代のリーダーを生むために働きかけていますか?

若い世代の方に意思決定の訓練として、そういった機会を提供していきたいです。昔のように情報がすぐ手に入らなかった時代とは違って、今はスマホでもChatGPTでも瞬時に情報が得られますよね。その反面、若い世代は「深く考える力」が弱まっていると感じます。世の中のスピードが速くなっているために、なおさらこの力が差別化要因になってくるはずです。

直近、部門横断で迅速機敏な意思決定を図るために6つのタスクフォースを立ち上げました。そのタスクフォースは数名のメンバーが関与するチームとなっており、リーダーには20代の若手を積極的に起用しています。私はサポートやコーチング役に回って、「今こそ意思決定をする力を身につけるべきだ」と伝えています。上司に頼りすぎると、自分で考える力が鈍ってしまい、承認欲求ばかりが先行してしまうからです。実際に6ヶ月間ほど取り組めば、若手でも意思決定ができるようになってくるものです。

リーダーたちが取り組んでいる案件や内容を社内で一覧できるようにしているので、アラートを感じたものには私から声をかけるようにしていますが、本当は私から言い出してはいけないんですよね。レビューの機会と捉えるのではなく、「一緒に作戦会議がしたい」という温度感でリーダーから発信してもらいたいところです。

地元の岡山で起業。500社巡っても作ったシステムが売れない

──若手が意思決定を訓練する必要性を、岡田さんも感じた経験があるのでしょうか?

まさにそうです。私はもともとパソコンの開発・設計をするハードウェアエンジニアだったのですが、お客さんにもっと役に立つものを作りたくて、システムエンジニアになりました。でも、システムエンジニアになって、お客さんと会話をしながら課題解決する仕事をしてみると、ますます課題が生まれてしまう背景が知りたくなりました。次第に、大きな企業の歯車ではなく、「自らやりたい」という思いが強くなって。営業は最もやりたくない仕事でしたが(笑)、地元の岡山に帰って友人とシステム会社を立ち上げました。

作ったのは製造業に向けた、キャッシュフローを改善するための生産管理システムです。岡山や広島は製造業が盛んで下請け工場も数多くありますから、それこそ500社は巡りましたが、全く受注できませんでした。当時はまだまだアナログな時代で、システムの価値が理解されなかったのです。

やっと1社受注できたのは、今でもはっきり覚えていますが、岡山の中堅製造企業です。しかも、半年で納品予定だったものが結局1年半かかってしまい、その間にかかった追加費用はその会社の社長が前払いしてくれました。ようやく1年半かけてシステムを稼働できたのですが、「ご迷惑をおかけして申し訳ない」と私が伝えると、社長は「システムを買ったけど、結果的に岡田さんに投資したんだよ」と言ってくれました。

そこまで言ってくれる社長のために、チームで全力を尽くしました。中途半端にやったり、逃げたりしないで、お客さんのために全力を尽くすことの大切さを、社長は教えてくれたんだと思います。

もし、うまくいかなかったら自分が責任を取らざるを得ないことって、山のようにあるんですよ。それをショートタームで意思決定するためには、どこかで腹をくくらないといけない瞬間も来る。自分で小さいながらも企業のトップとして、様々な意思決定をしてきたからこそ、訓練することの必要性が身にしみてわかっています

社会課題の解決は、家族を守るためである

──その後、起業された会社は、どうなったのでしょう?

おかげさまで生産管理システムが売れていていき利益が出てきたので、土地を買って自社ビルを建てました。そんなとき「受託開発にも乗り出したらどうか」と助言があって。ある人が仕事を融通してくれると言うので、100人近くを採用して備えたんですが、バブル景気が崩壊して、一気に仕事が止まってしまった。

毎月3,000万円近くのキャッシュが出ていき、借金を億単位で背負うことになり……首が回らず、倒産寸前にまでなってしまい、メンタルもだいぶやられていました。

そのような状況だった時、得意先だった鉄工所の社長を尋ねた際に、自社のよくない状況を話すうちに「次の休みに金甲山に登れ」と勧められました。岡山県で一番高い山なのですが、「なぜ登山?」と疑問に思いつつも言われるがままに登ったんです。山頂からは岡山市が一望できて、自分の会社も小さく見えました。そこでふと、いろんな問題があっても実際には小さな点にしか過ぎないのだから、問題の解決に取り組まないとだめだな、と気づけたわけです。

──ある種のメタ認知ができたのでしょうね。そこから何を変えたのですか。

リーダーとしてどうすべきかを考え、人員削減を決断しました。それだけではなく、職種は違うかもしれなくとも、全員が次に働ける場所も手配しました。経営を立て直し、最終的には製造業の得意先200社ほども応援してくれ、借金も完済したんです。ただ、自分の責任でもありましたから、会社は友人に譲って、私はサラリーマン人生に戻りました。

そういった体験があって、初めて痛感したんです。大切なのは「家族を守ること」であって、そのためには社会課題の解決に取り組まなくてはならないのだ、と。社会課題を解決する必要性って、蓋を開けてみれば、結局は「家族や大切な人を守るため」なんですよ。

たとえば、スーパーマーケットでお惣菜を値引きして売るということは、利益を削る決断でもあります。ある小売業の社長が、お惣菜の適正な供給量と値引き率を判断するためにAIを活用している、と話していました。目的は利益を確保するためですが、それもスーパーで働く家族の安心と安全を守るためであり、社会課題の解決もここに紐付いてくる。

AI inside のセールスやコンサルティングのメンバーには「AIによる自動化でコスト削減できる」といったことは強調しないように、と伝えています。大切なのは削減ではなく、浮いたコストの活用も含めて提案することだからです。その方が経営陣にとっても、より魅力的な提案になると思います。

AIを「作る世界」「使う世界」「走らせる世界」を実現する

──岡田さんから見て、AI inside のポテンシャルを感じるところは?

AI inside は、AIを「作る世界」「使う世界」「走らせる世界」を築くことができると思います。「作る世界」は文字通りですが、「使う世界」はAIが裏側で稼働していることを一切感じさせないようなサービスを提供することですね。そして、「走らせる世界」はAIを活用した新しいビジネスやサービスを作っていくことです。

「走らせる世界」の具体的なプロジェクトとしては、某地銀が、取引先にデジタル推進のコンサルティングを提供する企業を作り始めていて、AI inside もパートナーとして一緒に協業していく動きがあります。

銀行にとっては、取引先の企業が利益を出すことが、手数料なども含めた自社の利益にもつながりますから、その支援は欠かせません。また、一般的なIT企業と違って、銀行は経営者にも直接アプローチできる存在です。このケースがうまくいけば、全国的にも同様の動きを広げていけると考えています。

──CROとして、マネージャーとして、心がけていることがあれば教えてください。

組織改革のためには、マインドセットをトランスフォーメーションしていくことが大切だと思っています。そのためには、5つの観点が欠かせないと考えています。

1:利益から目的にシフトすること。上場企業である以上は売上目標はありますが、目的を犠牲にしてまで利益を追求するのは避けるべきです。

2:階級組織からネットワーク組織にすること。各事案ではそれぞれに役割がありますが、ワンチームで取り組むことが大事です。

3:支配から権限を委ねる・与えること。上司には権限がありますが、それで支配してしまっては、部下はパフォーマンスを発揮できません。上司部下の組織ではいても、支配は排除していきたい。

4:計画から実験すること。計画を作ってから実行しても遅いのです。施策を打つ時には、策を練って、実行し、評価するまでを1週間で回してほしい。早いテンポで良いプロトタイプを実験していくことが大事です。

5:透明性のあるコミュニケーションをすること。悪い情報も早く伝えて解決策を考える必要があります。隠さずに透明性を持ったコミュニケーションをしていきましょう。

──5つの観点にも表れていますが、岡田さんの考えには「上司から振る舞いを変える」という行動規範のようなものを感じます。

私は62歳ですが、27歳で起業して以降、マネジメント職を長く経験してきました。マネジメントとは「人に動いてもらえるようにパフォーマンスを上げていく仕事」ですが、だんだんと「一人きりでどこまでやれるのか」がわからなくなっていくものです。

そんな自分を試してみたくて、去年はバイクにテントを積んで、夏の北海道へ10日間の旅に出ました。札幌から礼文島を目指して北上していくと、さまざまなバイカーと出会います。そこでは年齢や職業も関係なく、フラットに会話をしました。ガス欠寸前になってしまった私に自分の車からガソリンを分けてくれた人がいたり、寒さに震えた夜にはキャンプの焚き火に当たらせてくれたりした人もいます。「気持ちを優先して、相手のために何かをする」という機会が日常ではなくなっていくものだ、と感じたものです。

旅を終えて仕事に戻ると、なおのこと上司部下の関係性を感じました。自分には上司としての権限があり、どうしても部下への支配力が生まれてしまいます。だからこそ、部下とコミュニケーションをする際には、相手を受け止める気持ちを持って、「本音で話せているか」を考えつつ、話しやすいように仕向けるように心がけています。

私が「黒だ」と言ったものが、本当は「白」かもしれない。部下は迎合せずに、率直に「白だ」と伝えてもらいたいわけです。そのためにも支配を排除して、上司から振る舞いを変えることが大切なのだと思っています。

(文・写真/長谷川賢人)
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