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「開発期間は4日」開発最前線に立つCEOに聞く、勝つために必要なスピード感とシンプル思考

「Eureka!」

2023年6月21日、午後9時すぎ。AI inside の創業者であり、代表取締役社長CEOの渡久地択は、自身のSNSでそう投稿しました

ギリシャ語に由来し、かつて偉大な科学者が「何かを発見、発明したことを喜ぶとき」に使った言葉を渡久地が思わず残したのは、AI inside にとって、人間とAIの歴史にとって、まさに感嘆すべき瞬間だったからです。後に発表する新サービスの元となる技術が開発できた時でした。

2023年6月には、生成AI・LLMの研究開発と社会実装を行う「XResearch」を創設し、渡久地はリードする立場として開発の最前線にも立っています。そして、2023年8月、XResearchの活動から生まれた成果として、生成AIの新サービスを発表しました。その名もAIエージェント「Heylix(ヘイリックス)」。わずかな期間で生成AI・LLMを組み込んだ新サービスを開発し発表に至った、その裏側には過去の経験から会得した爆速開発を実現するための思想がありました。

渡久地 択(Taku Toguchi)
代表取締役社長CEO
2004年より人工知能の研究開発をはじめる。以来、継続的な人工知能の研究開発とビジネス化・資金力強化を行い、2015年にAI inside を創業。2019年に東証グロース市場に上場を果たす。経営・技術戦略を指揮し、事業成長を牽引している。多数の技術特許を保有。

「XResearch」設立の狙いは、スピード感を組織に実装すること

──2023年6月に新組織の「XResearch」を立ち上げ、自らリードされています。どういった経緯だったのでしょうか。

2019年の株式上場直前の頃から、社長としての役割を全うするようになり、自身が手を動かす開発からは手を引く決断をしました。その後も開発の進捗状況を見ていましたが、昨年末からの生成AI・LLMの台頭により、これまでにないスピード感で次々と革新的なことが起きていることもあって、改めて「スピードこそ力(ちから)」「圧倒的なスピード感で破壊する」ということが勝つためには大事なんだと再認識し、自らもまた開発に参画することに決めました。ここからは、今後10年間でやろうとしていたことは、1年ほどで達成できるくらいのスピード感で、大きな変化を起こしていきたいと考えています。

──「XResearch」の創設は、組織全体のスピードを上げたい意図があったのですか?

そうですね。AI inside はまだ130人程度の組織です。社内で新たな動きを起こして、みんなが使える形にテクノロジーを活用し、全体の速度を上げて、みんなのクリエイティビティが生かされる状況を作りたかった。それが、「XResearch」としての目標でもあります。

また、私自身、頭の中で考えていることをアウトプットする方法として、自らソースコードで表現することが確実と感じた部分もあり、「XResearch」で活動を始めたという形でした。

──スピード感の重要性を「再認識」された、ということは、渡久地さん自身にそのような経験があったのでしょうか。

2004年に起業し、AIを中心に据えたビジネスを展開する以上は、その手前にITへの理解は欠かせませんから、自身でプログラミングを習得しました。オンラインで独学して、最初は飲食店を検索できるメディア・ウェブサービスの構築から始めました。お客様に届けるにはマーケティングの知識も必要、日々の機能改善も必要……と切実な状況から適宜、必要になるものを勉強していきました。

そんななか、顧客から「自分たちで内容を編集したいから管理画面が欲しい。それがあれば契約する」と言われ、開発経験も何もないけれど、それこそ泣きながら勉強して、3日後には実装して、無事に契約を獲得できました。こういった経験から、開発者としてはここ20年間、スピード感を意識して仕事を続けてきましたね。これは、我々が失ってはいけないものだと思っています。

──「XResearch」の創設後、どのような変化を感じていますか。

この数ヶ月ほどで大きく変化しています。営業活動でも革新的な提案ができたり、スピードアップが図れたり。これまで解が見えにくい課題に直面していたところに、一気に解決策を見い出せるようになってきたと思います。

目指すべきは「1週間で作れて、大きなインパクトを生む」プロダクト

──2023年8月に発表した新サービス、AIエージェント「Heylix」の開発期間はどのくらいだったのでしょうか?

ある夕方、会社でソースコードを書いていたら、私のデスクの隣席で社員が「こういったニーズは常にあるけれど、なんとか実現できないんですかね」とぼやいていて。どんなニーズか話を聞いてみると、なんとなく「今すぐできそうだな」と思って、その場で試してみたら、できたんですよ(笑)。会社にいたエンジニアたちも集まってきて、みんなで盛り上がったのが、始まりですね。

初めて社内にデモを披露したのが火曜日で、その時は実行画面だけでした。そこから、次の火曜日には一連の機能を整えたサービスとして準備できていましたから、初期バージョンの開発に要した日数は、営業日で言えば4日ほどでしょうか。

──開発期間も、通常の経営業務と並行していたわけですよね。

そうです。一日に1時間しか開発に費やすことができない日もありました。その頃には、有志で集まってくれたメンバーが数名いて、開発を進めるのに助けられましたね。

──それにしても、圧倒的なスピード開発ですね。
意思決定にスピード感を持たせるために、「Heylix」の開発は少人数で進めました。まずは「ミニマムなもので形にすること」を意識しましたね。

実は、当社の主力製品である「DX Suite」も初期バージョンは約1週間で作ったんです。むしろ、1週間で完成できないようなプロダクトは複雑過ぎて使われることはない、という持論があります。目指すべきは、1週間で作れるくらいのシンプルさで、大きなインパクトを生むプロダクトです。

特にSaaSの場合、アップデートが進むと機能が増えがちですが、複雑さにつながってはいけないと考えています。私は開発でも常に「ボタンの数を減らそう」と言い続けているんです。

特にAIプロダクトは、バックグラウンドでAIが処理を自動化できる部分がたくさんあるので、人間が操作する必要のないボタンは削除してしまってもよいはずです。どんどんシンプルになるけれど、同時にできることが増えるプロダクトこそが最良だと考えています。

──たしかに、機能が充実していくにつれて複雑になっていく感覚はありますね。なぜ、逆行しがちなのでしょうか?

日本の教育システムや評価システムでは、失敗が許されないという風潮があります。それゆえに「突破的な手法」も良しとされないからでしょう。今までの延長線上の発想や常識的なやり方ではなく、非常識なことを提案すれば「和を乱す」とも言われかねない。でも、それではやはり突破できないこともある。

AI inside のミッションは「AIテクノロジーの妥協なき追求により、非常識を常識に変え続ける」ですが、突破するためには発想の転換も欠かせません。先ほどの「1週間で作れるくらいのシンプルさで、大きなインパクトを生むプロダクト」に意味があるのと同じで、「1日で作れて、インパクトが出せるテクノロジー」がいいものだと思います。

自分自身さえディスラプトして超えていく

──今から5年後の2028年、渡久地さんはどんな未来を想像しますか。

その頃には「Heylix」が人間の病気を治せるような存在になっていることでしょう。AIを体内に送り込んで、自動的に体調を整える処置をしてくれるようにしたい。

その時点で、AIは従来的な「人間」の領域を、すでに超えていると思います。そして、現在の人間が行う仕事の範疇は、多くのところでディスラプトされながら、今はまだない新しいものになっている。もっとも、その状況をAI inside が実現させていたいですね。

──「人間」と「AI」はどのような関係性になっていくのでしょうか?

人間とAIが融合することで、人類は今より進化できると考えています。そして、「人間」の捉え方も考え方も、全く変わってくる。AI inside のパーパスである「AIで、人類の進化と人々の幸福に貢献する」にもつながっています。言うなれば、人間が初めて火を使い始めた時と同じくらいの転換点に、いま私たちはいるわけですから。

遺伝子構造の「螺旋」に由来して名称をつけた「Heylix」は、人間とAIが融合していく世界観において、進化の歩みを進めるものです。人々は「Heylix」を使ってAIを作る時、「どうすればこのテクノロジーをうまく扱えるのか」と考えるようになります。すぐにAIを作れて、他者にも共有し、反応を得ながら試行錯誤できる環境が出来上がった。その意味では、人々のクリエイティビティに期待が掛かる場ともいえます。

私たちもその場を育てますが、誰もが考えつかないようなことを簡単に実現できるようにして、みんなに「育ててもらえるような場にする」というのが大事です。業界を問わず、私たちが想像できないような使い方をされることを期待しています。全く違う角度から「Heylix」に新機能が搭載されて、「こんなことまで可能になったのか!」と驚くようなことを続けたいんですよね。

──最後に、渡久地さん自身も進化を続けていますか。

私は、自分自身もディスラプトし続けたいと思っています。

最近は開発に没頭する時間も増えてきていますが、おそらく、私は作りながら、作っているものを変えているんです。だから、大体が「作ろうと思っていたもの」にならない。

たとえば、ブログの記事を書き始めても、書く前に想定していたものと、出来上がったものが全然違います。プログラミングも手を動かすうちに、もっと良いコードに呼ばれるように形が変わっていく。どんどん変わってしまうから、1時間後にはすっかり違うことを考えているのもよくあります。

頭のどこかで、いつも「1時間前の自分を倒してやろう」と思っていますね。

(文・写真/長谷川賢人)
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