
評価のための目標設定をやめた、「インパクト」で評価するAI inside の評価制度とは
皆さん、“評価制度”と聞くとどういうものを想像されるでしょうか。一般的には、社員の「処遇」を決めるための仕組みを指しており、ある時期が来ると社員間で「目標達成できた?」といった会話を耳にすることも多いと思います。
AI inside では、2021年10月より新しい評価制度がスタートしました。いわゆる一般的な「処遇」を決めるための制度ではなく、自社のミッションである「世界中の人・物にAIを届け豊かな未来社会に貢献する」を体現するための仕組みへと刷新されています。
今回は評価制度を変えるに至った背景や想いを、人事責任者にインタビューしました。

Yokoi
求人広告の営業を経て、人事にキャリアチェンジし13年目を迎える。未来志向のビジョンを、マーケットそのものをデザインすることで実現しようとするAI inside に惹かれ、2020年12月に入社。現在はPeople Relations Unit のVP(Vice President)として主に人事制度に関連したプロジェクトを牽引。
評価制度が社員の創意工夫の足かせに
ー 評価制度を見直すきっかけは、何だったんでしょうか。
従来の評価制度は、個人のOKRに基づいた成果評価と仕事ぶりや取り組み姿勢などの行動評価によって行っていました。しかし運用を始めてから、会社の成長とともに社員数も増え組織体制も変わり、またコロナ禍によってリモートワーク中心になるなど、仕事環境が大きく変わっていきました。
その変化により、2つの課題が出てきました。1つは、個人OKRが、“評価のための目標管理”に形骸化してしまったこと。もう1つが、オフィスで日々対面しながら仕事をすることを前提とした行動評価では、リモートワークでは行動観察が困難であること。とりわけ、当社にとっては、1つ目の課題が深刻でした。

ー 個人OKRが“評価のための目標管理”となることで、どのような影響があったのですか。
社員にとって、全社目標と個人OKRに結びつきを感じられない、ということが起きていました。自分の頑張りが事業戦略のどこに繋がっているのか、会社の目指すミッション・ビジョンにどう関与しているのかが、わかりづらい。実際にそういった声を社員から聞くこともありましたね。
会社と個人の結びつきが希薄になると、自分の仕事に動機付けがしづらくなります。「何のためにやっているんだっけ?」が不明瞭なままだと、そこから挑戦や工夫はなかなか生まれづらいですよね。
当社は変化が大きく、スコープが短期間で大きく変わることも少なくありません。そうすると個人レベルでは期初に立てた目標が変わることもしばしばあり、結果、期初に設定した目標以外のことばかりやっていて掲げた目標の意味を感じられない社員もいました。また、立てた目標の達成度によって処遇が決まる仕組みであったために、個人OKRを設定する際には、達成可能なレベルの目標を掲げがちになっていました。
当社は、まだ世の中にない価値を創り出す企業であるにも関わらず、評価制度が社員のオーナーシップやフロンティア精神の足かせになってしまっていると気づきました。そこで、個人OKRと評価を切り離す決断をし、評価制度の設計を全体的に見直しました。
「インパクト」を軸にした評価制度へ刷新
ー 新しい評価制度はどのようなプロセスで検討を進められたのでしょうか。

まずは複数の社員との1on1を実施し、社内で起きている課題を改めて整理し、人事・組織の基本方針となるコンセプトの設計から着手しました。社員の仕事観やマネジメントの役割、目標管理の観点などを言語化し、目指す状態を定義しました。
そして現行制度では何が阻害要因となっているのか、現在のプロセスや使用ツールを見直しながら新たな評価制度を設計し、2021年10月より運用を始めました。
ー 新しい評価制度のポイントを教えてください。
まず、評価のための目標設定をやめました。これは目標を持たないということではなく、評価のために達成可能な目標を立てるという行為をせず、もっと本質的に「一人ひとりが創り出した価値」を評価することにフォーカスしています。
そして、当社のMissionをそのまま評価軸にできないかと考え、創意工夫やチャレンジ、チームワークを通じてインパクトをいかに創り出すことができたかを軸とした評価制度にしたことです。
これらを実現するための仕組みが、「ユニットOKR評価」「インパクト評価」になります。
ー それぞれの評価の狙いは何でしょうか。
まずユニットOKR評価については、チームでより大きな成果を生み出すマインドセットを醸成することを目的とし、これまで行っていた個人単位でOKRを作ることをやめ、ユニット(当社のチーム単位の呼称)でOKRを作成し、その難易度と達成度によって評価を行います。
当社はプラットフォーマーとして、エコシステムを形成し拡大することで、大きな価値を創出します。これは社内でも同様です。チームで大きな成果を出すために各人が貢献し、その取り組みが評価されるようにしました。
続いてインパクト評価は、行動から成果、更にその先のどういった影響を与えたかまでを一体で評価するものです。インパクトを創るのは、簡単なことではありません。困難な問題にも創意工夫でやり抜くこと、積極的に新しい可能性を切り拓くこと、周囲を巻き込んでより大きな変化を生みだすことが必要で、この一連のプロセスを常に考え、習慣にしてほしい。それがAI inside のカルチャーになっていくと考えています。
ー 評価のプロセスで、他にも大きく変更した点はありますか。
これまでは目標の達成度によって1~5点の評価をつけていたものを、自分の取り組み成果を記述方式で報告するプロセスに変更したことですね。そして上司や同僚からも取り組み姿勢や貢献度合いについて360°フィードバックをもらいます。
数字で評価をつけた方が明確でわかりやすいのですが、世の中に価値を創出する人材であるためには「アカウンタビリティ(説明責任)」が求められます。自分が会社に対して提供した価値に相当した対価をもらうというのが、プロフェッショナルですよね。そういう意味では、社員に対し高い要求をしていると思います。しかし、これができるようにならなければ革新的でクリエイティブな仕事はできません。もちろん、短期的にすぐ変わるものではありませんが、会社としての文化を醸成するため、思い切って舵を切りました。
目標に働かされず、目的で働く集団であるために
ー 実際に運用してみてどうですか。

運用はまだ始まったばかりなので、今は新しい制度を理解してもらう、1サイクル目をやっているフェーズです。社内に大きく変化が生まれてくるのはこれからだと思いますが、当社が重視していることをはっきりと示せたことは大きいと思います。具体的には、インパクト評価の項目にもなっている創意工夫、チャレンジ、コラボレーションが評価点になるということです。創り出した価値だけでなく、それまでの行動も当社は重要視していますというメッセージを伝えることができました。
ー 新しい評価制度を通じた想いをお聞かせください。

当社のビジョン・ミッションを達成するためには、どんな能力を持つ人がどういう状態(behavior)仕事に取り組むかで、生み出せるインパクトは大きく変わります。よって、従来型の評価のための目標設定をやめ、より大きな目的に向けた活動に個人がイニシアティブを持つことで、一人一人がプロフェッショナルとして新たな価値を磨き続けることができると思います。今回あらためて「働く」ことの意義を捉えなおし、リーダーシップを発揮する人が増えることで、未来社会を豊かに明るくできると信じています。